

英語の能力、特にリーディングの能力は、いかに多くの単語や熟語を知っているかで決まる、と思っている人は多いのではないでしょうか?もちろん、単語や熟語をたくさん知っているに越したことはありません。しかし、聞き取れない部分を補うことがリスニングの力であるように、分からない単語や熟語が出てきても、そこを飛ばしたりその意味を推測しながら読んでいくのがリーディングの力なのです。

英語を読んでいれば、知らない単語や熟語は必ず出てきます。このとき、いちいち辞書をひいて意味を調べている人が多いのではないでしょうか? 知らない語が出てきたら、調べて語彙を増やそうとする気持ちはわかりますが、文章を読みながらいちいち辞書をひくのはリーディングの力をつけていく上でいい方法ではありません。そもそも、ひとつの文章を読むのに途中で何回も立ち止まってしまっては、文章の大きな流れが掴めず、結局、その文章から得られるはずの情報がスムーズに入ってこないことになるのです。文章は、単に文の寄せ集めではないのです。

それでは、知らない語句に出くわしたときにはどうしたらいいのでしょう。すぐに辞書をひくのではなく、その意味を推測するよう心がけることが大切です。言葉を理解していくときに、人は常に推測能力を働かせています。だからこそ、全ての語句を読まなくても、そして全ての語が聞こえなくても、意味を理解することができるのです。日本語で話していても、自分が初めて聞く単語が出てくることはよくあります。しかし、母国語であれば、前後の話や場面からごく自然に意味を推測して、話を進めていくことができます。しかも、この推測が大きくはずれることはめったにありません。英語においても推測する習慣を身につけ、その能力を高めることが、リスニング、リーディングの力を高める第一歩です。

単語によっては、文脈から意味を容易にくみ取れるようなものがあります。もちろん、推測しにくい単語もありますが、それはそれとして空白な形で残しておいて、パッセージの内容を捉えるよう心がけなければいけません。そして、パッセージ全体として、その構成や内容が、まあ、こんなものだろうと納得できる形でとらえることができれば十分です。未知の単語があっても辞書をひかずに最後まで読み切る。これが大事なのです。

単語の意味を推測する能力を磨くにしても、英語を読む上で、語彙は多いにこしたことはありません。語彙を増やすには、いろいろな訓練の方法があります。その中でいちばん愚かな方法は、英語の単語を左に書き、右側に日本語の意味を1つか、2つ書いたリストを作り、それだけを丸暗記するという方法です。
まず、この方法は暗記能力の鍛錬にはなるかもしれませんが、本当の意味で英語の語彙を増やすことには役に立たちません。ある単語の意味をマスターしたというのは、特定の意味が日本語で出てくるということではなく、その単語がどのような分脈で、どのようなことを言いたいときに使われるのかを理解しているのかということです。さらに、単語帳式の勉強では永遠に日本語を介しての理解から脱出することはできないでしょうし、すでに説明した読むスピードの問題もいつまでも解消できません。一見遠回りに見えるかもしれませんが、全く違った言語である英語の語彙を増やしていくには、英語の文脈の中で繰り返し触れながらマスターしていくしか方法はないのです。

わからない単語は極力推測していくことが大事です。そして、意味が大体推測できるもの、分からなくても文の流れに沿って読んでいくのに差し支えない単語はいちいち辞書で調べる必要はありません。辞書は、全く推測に自信がなく、その単語が文章全体の意味を掴むためのキーとなる単語だと思えるときだけひけばよいのです。そして、辞書をひく場合であっても、必ず意味を推測しましょう。これには2つの効用があって、1つはもちろん正確な推測をする能力を高めるということ。もう1つは辞書をひいて自分の推測が合っていてもはずれていても、インパクトが強い分、辞書をひいた結果が頭にしっかり刻み込まれるということです。

日本語では、日常的に推測はスムーズにできます。どころが、英語は文法構造はもちろん、比喩やイディオムを含めた表現、単語のイメージ、生活習慣から、人生に何を求めるか、といったところまで違います。ですから単語の意味の推測、と一口にいっても、難しいのは当然です。しかし、推測を意識して繰り返していくことによって、それまで目に入らなかったヒントがパッセージの中に隠されていることに気がつくようになります。さらには背景となる知識への理解が深まっていくでしょう。言葉の学習を通して文化への理解が得られるということが言われますが、それはつまりこういったところから始まるのではないでしょうか。
